いとうせいこう『ノーライフキング』について

3月には読み終わっていたのですが、いまさら感想を書きます。とてもおもしろかったです。

 

子供たちの間で爆発的に流行しているゲーム「ライフキング」にまつわる噂が、しだいに子供たちの現実を侵食していく話です。「ライフキング」は呪われたゲームであり、世界を終わらせる力があるという噂が広がっていきます。これに打ち勝つため、子供たちはゲームを攻略し、終いには現実世界でも行動を起こし戦います。

 

読んでて一番震えた場面は、子供たちが徴を並べはじめたとこです。先程は「子供たちの現実を侵食していく」と書きましたが、実際は最初からゲームの世界も現実世界も、子供たちにとっては区別されてないんですね。「現実」といったら全部現実なので当たり前かもしれませんが。この徴を並べるという行為は、ゲームをしていない大人たちにとっては、非現実的なのでまったく理解されません。むしろ徴を撤去していきます。そして、ゲーム機を取り上げるようになるのです。子供たちは世界を救うためにゲームをしているわけですから、ゲーム機を取り上げる大人たちを敵までとは言いませんが、自分たちの行為を邪魔する者として認識するようになっていきます。また、両親も救いたいという気持ちもあるので、苦悩もあります。

この、子供たちの現実と大人たちの現実の齟齬がとても素晴らしく、体が震えました。個人的には、「現実」についての話だったという感があります。